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:2007:01/19/01:11 ++ 同様の動揺
ふむ。
俺は鉄の扉の前で、どうした物か考えを巡らせていた。
“生体認証”
網膜であったり、指紋であったり、身体の一部を登録してパスワード代わりにするシステム。
前者の場合、対象者が糖尿病やらなにやらを疾病している事さえわかるらしい。
“貴方はガンを発症する恐れがあるから、弊社では採用を見合わせて頂きたく…”とか、言われる日が来るんだろうか。
後者の場合、昔から印鑑代わりに使われていた感もある。
つまり、扉の向こうへ入るその都度判を押して、ドアロックを解除してる訳か。
常に更新される契約、合意するかしないかを隔てるドアロック。
中指の血管を登録するシステムを採用していた。
ドアの向こうへイクたびに中指を差し出す、“FUCKして下さい”と。
喉の奥まで咥え込んでから支払われる給料、“身体が資本”とはよく言ったモノだ。
9回に1回。
それが俺がドアロックを解除する、おおよその確率。
バッターボックスに立ったならば、ツーアウトと空振り二回でようやく一球バットに当てて、
ピッチャーマウンドへ上がったならば、二人程塁に送った後、ようやく一球ストライク。
早いのはベッドの上だけ、ってか?とんだ不感症だ。ただでさえ少子化がどうとか言ってるのに。
しかしこれじゃ、仕事にならない。
“客引きみたいにドアの前で突っ立って、開けられる人が来るのを待つ”
人が多いうちはこの作戦を採用してみた。
気分はまるで娼婦。“お仕事”の為だというのは変わらないのだけど。
受け身の営業活動は功を奏し、とりあえずドアの前で腕組みする時間は減った訳だよ、ブラザー。
問題は人が少ない時…仕事始めだ。
ざっと周りと自分の持ち物を、見回してみる。
狭い廊下に非常口、火災が起きた時の警報装置、申し訳程度に用意された流し台、手には仕事に使う資料と、ついさっき自販機で買ったジュース…。
警報装置を鳴らせば、ほぼ確実でだろうが、入るたびにいちいち火災を演出する訳にもいかない。
俺がしたいのは放火(自作自演)ではなくて、仕事なのだ。
そういえば、似たようなシチュエーションが前にもあったな、と、過去の出来事が脳裏を焦がす。
確かアレは仙台(の一歩手前の塩釜)のホテル。入り口を通るのにカードキーを使っていたのだが、それを部屋に忘れたまま出かけた時の事。
部屋にはロック掛かってないのだが、ホテルに入るためにロックを解除しなきゃならなかった時の事。
ひとつやってみるか、面白そうだし。
要は、“外から開けられない”のだから、“中の人に開けてもらえばいい”のだ。
中の人に開けてもらう手段は、昔から相場が決まっている。
もっとも原始的な、扉を開けるパスワード。
俺は扉を軽く、拳で数回ノックした。
ガチャリ、と、目当てのドアが開く音を、非常口の裏で聞いていた。
どうやらうまくいったようだ。
“ついさっき下でジュース買ってきたんですよ”という顔をして、そして実際ジュースを持って、開いているうちに-閉まっていくドアの音を聞きながら-仕事場へ入った。
「おはようございま~す」
ちょっと手を貸して貰った事に感謝する意味もある、営業用の笑み。
「え?あれ?さっき誰かノックしてませんでした?」
「いえ?セキュリティあるのにノックする人なんているんですか?」
「いやそれはそうなんですけど…誰も居なかったんですよ…」
「へぇ、すれ違ったりとかはしなかったですけどねぇ、不思議ですねぇ。あぁ、今日もよろしくお願いします」
「え?はい、お願いします」
ふむ。
流石に何回もやるのは不味いな。
甘いうちにつける嘘、プロポーズにも似たスリルの味。
記録されない事ならば、無かったのと一緒だ。
ましてや中指にエンゲージリングなんて要らない、FUCK!
さて、明日はどうするか。
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